大判例

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仙台高等裁判所 昭和24年(ネ)23号 判決 1949年7月08日

青森市大字寺町

控訴人

靑森市長

横山実

右訴訟代理人

弁護士

葛西千代治

内野房吉

靑森市大字大野字長島百番地

被控訴人

伊東武

右当事者間の昭和二十四年(ネ)第二三号徴税令書無効確認請求控訴事件について、当裁判所は次のように判決する。

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張は、被控訴人において、昭和二十三年二月二日靑森市議会で議決された靑森市市民税賦課方法條例中一部改正條例の内容は、「第二條中「百二十円」を「二百四十円」に改め、第三條中「二十円」を「五十円」に、「四十円」を「八十円」に改める。附則、この條例は公布の日よりこれを施行し、昭和二十二年度分よりこれを適用する。」というのである。控訴人が、昭和二十四年五月十日本件改正條例の公告をしたことは仮りに被控訴人主張の通り靑森市市民税賦課方法條例中一部改正條例の公告がなかつたとしても、右改正は單に金額を改めたに過ぎないものであるから、被控訴人に対する本件市民税賦課処分が当然無効ということはできない。従つて当然無効であることを前提とする被控訴人の請求は失当である。

なお、控訴人は念のため昭和二十四年五月十日改めて本件一部改正條例の告示をしたと述べた外、総て原判決事実掲示と同一であるから、茲にこれを引用する。

証拠として、被控訴人は甲第一乃至第六号証、第七号証の一、二を提出し、甲第一号証中二月二十日欄下部の「その他」という文字は本件紛争発生後同日告示のあつたことを僞裝するため記入されたものである。原審で甲第七号証の表面と述べたが、甲第七号証の一に裏面と述べたのが同号証の二に当るもので甲第七号証の一と同号証の二とは表裏に当るものではない。なお、甲第七号証の一はその作成日附当時作られたものではなく後日の作成に係るものであると述べ、原審証人大島孜、西山良夫、工藤信男の各証言を援用し、乙各号証の成立(ただし乙第二号証はその日附の当時に作成されたものではないと述べた)を認め、控訴代理人は乙第一号証の一、二、同第二号証、同第三号証の一、二、三、同第四号証の一、二、同第五、六号証、同第七号証の一、二、同第八号乃至第十七号証の各一、二、同第十八、十九号証、同第二十乃至三十二号証の各一、二、同第三十三号乃至第四十一号証を提出し、原審証人、楢崎友治、江口梅太郞、福島健治の各証言を援用し、甲第一、二、五、六号証、第七号証の一、二の成立を認め、同第三、四号証は不知と答えた。

理由

まず本件訴が不適法であるとの控訴人の抗弁について考える。被控訴人が本件市民税賦課処分について当時の地方税法第二十條の規定による異議、訴願の手続を経ないで靑森地方裁判所に本件訴訟を提起したことは、本件弁論の全趣旨からみて明白であるが、本件訴訟は市民税賦課処分が取消をまつまでもなく法律上当然無効であると主張してその無効確認を求める訴と解し得られる。

而して本訴提起(昭和二十三年四月三十日)当時の地方税法第二十條は現行地方税法と異り裁判所への出訴に先立ち必ず異議訴願の手続を経なければならないとした趣旨かどうか疑の余地がないではないが、仮に出訴前に異議訴願の手続を経なければならない趣旨であつたとしても、課税処分が当然無効であるとしてその無効確認を求める場合にまでその適用があるものとは解し得られないからして、異議訴願の手続を経ないで提起された本件訴訟が不適法であるとの控訴人の抗弁は理由がない。

次に本案について考察する。

靑森市民税賦課方法條例中一部改正條例が昭和二十三年二月二日靑森市議会で決議されたこと、右一部改正條例の内容は、第二條中「百二十円」を「二百四十円」に改める。第三條中「二十円」を「五十円」に、「四十円」を「八十円」に改める。附則、この條例は公布の日よりこれを施行し、昭和二十二年度分よりこれを適用する。

というものであること、控訴人が昭和二十三年二月二十七日附で被控訴人に対し「昭和二十二年度靑森市市民税金百四十七円十銭を昭和二十三年三月四日限り靑森市金庫に拂込むべし」との徴税令書を発し、その令書が同年三月十日頃被控訴人に送達されたこと、右課税処分が前記改正條例によつて改正された金額を基準としてせられたことは、何れも当事者間に争のないところであつて、本件における事実上の争点は、前記靑森市市民税賦課方法條例中一部改正條例が右課税処分に先立ち、靑森市公告式によつて適式に告示されたかどうかの点にある。この点について控訴人は、右改正條例を昭和二十三年二月二十日適式に靑森市役所掲示場に掲示して告示したと主張するのであるが、右の事実は控訴人の全立認によつても未だこれを認めるに十分でなく、結局前記課税処分に先立つて右改正條例が告示されたことについては、これを確認するに足る的確な証拠がないことに帰する。ただ成立に争のない乙第五、六号証によると、控訴人は原判決言渡後である昭和二十四年五月十日右改正條例を靑森市役所掲示場に告示したことを認めることができる。

ところで被控訴人は、前記改正條例は告示されない以上その効力を発生しないから、この改正條例に基く課税処分は法律上当然無効であると主張するものであるが、しかし右改正條例は従前から施行されていた靑森市市民税賦課方法條例中の第二條及び第三條の金額を改正したに過ぎないことは前示の通りであつて、この改正條例がその効力を発生する以前においても、靑森市市民税賦課方法條例の嚴存したことはいうまでもない。即ち控訴人は右改正條例によつて始めて市民税を賦課徴收することができるようになつたわけではなく、改正條例が効力を発生しないときでも改正前の靑森市市民税賦課方法條例によつて市民税を賦課徴收し得たのである。但し右改正條例の効力が発生する前は改正前の條例による金額を基準として課税すべきは勿論であつて、右改正條例の告示前に改正條例による金額に基いて算定した税額を課することの違法であることはいうまでもないが、しかしかような違法があるからといつてその課税処分が当然無効であると解することはできない。

かかる違法な課税処分に対しては当時の地方税法第二十條の規定により異議の申立及び訴願が許されるし、又訴願の裁決に不服のある場合は更に裁判所に出訴してその取消変更を求め得るであろうけれども(但し行政事件訴訟特例法第十一條の規定を適用すべき場合であるかどうかはしばらく別として)右のような手続によつて取消変更されない限りなお有効に存続するものと解するのが相当である。従つて本件課税処分が当然無効であるとして、その無効確認を求める被控訴人の本件請求は失当といわなければならない。

なお、被控訴人の本訴は、本件課税処分が当然無効でないにしても少くとも取消さるべきものであるとして、その取消を求める趣旨をも含んでいるものとみられないこともないので以下この点について考察する。

前記改正條例が本件課税処分の前に適法に告示されたことを認めるべき確証がなく、従つて右改正條例によつて改正された金額を基準としてなされた本件課税処分が違法というべきであることは前に説明したとおりである。

しかし、右の違法は要するに手続上の瑕疵に存するものであつて、右改正條例は前認定のとおりその後適式に告示されたのであるから、仮りに本件課税処分が違法であるとして取消されたとしても控訴人は更に適法な課税処分をすることによつて所定の市民税を徴收し得るものといわなければならない。

従つて、本件課税処分が違法であるとして取消されてもこれによつて被控訴人の受ける利益は甚だ薄いのに反し、成立に争のない乙第七号証の一、二によれば、控訴人は昭和二十二年度における市民税賦課総額四百三十二万六千七百五十五円三十六銭中昭和二十二年度決算までに金三百九十七万五千余円を、昭和二十三年度に金十万一千余円を徴收し、賦課額の約九割四分が徴收済であつて、しかもその大部分が支出済であることが窺い得られ、かような点からみて、本件課税処分の取消が靑森市及び市民に與える影響は決して少くないものと考えられる。即ち本件課税処分について仮に当時の地方税法第二十條の規定による異議訴願の手続を経ないで裁判所に出訴することが許されるものと解し得るにしても、本件課税処分を取消し又は変更することは上記の理由により公共の福祉に適合しないものと認めるから、行政事件訴訟特例法第十一條により控訴人の本件課税処分取消の請求もこれを棄却すべきである。

よつてこれを容認した原判決は不当であつて、本件控訴はその理由があるから、行政事件訴訟特例法第一條、民事訴訟法第三百八十六條、第九十六條、第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 谷本仙一郞 判事 村木達夫 判事 猪狩真泰)

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